国立公害研究所

環境情報部

(1)環境データベースによる情報の収集・整理・提供

 環境・公害に関する情報の収集、整理、提供を体系的に大型電算機システムを利用して行う構想は研究所発足当初よりあり、その後、特に文献情報やモニタリングデータ等の数値情報を中心として収集・整理が始められた。環境情報部では、これらの電算機処理が可能な形で整理された情報・データ及びその処理方法を「環境データベース」として体系化することを試み、昭和52年度に一応その時点での大綱を設定し、そのシステム構成を示した。その後、この構成は電算機システムの更改に伴ない何回かの改良が加えられ、平成2年度の組織改革前はデータベース構成を有し、これに基づき、環境情報の収集、整理、提供を行ってきた。これは環境に関する情報やデータを大きく、@数値情報A文献情報(社会情報を含む)B情報源情報の三つに分け、外部及び当研究所作成のデータ・ファイルを有機的に結合し、情報の利用を効率的に行うデータ・ベースシステムである。

(2)電算機システムの整備とサービスの提供

 昭和50年3月に、メインフレームとしての初代の電算機システム(日立H−8450モデル)が導入された。この電算機システムの中央処理装置は2台のデュプレックス方式で構成され、磁気コアを用いた主記憶装置で、約1.3MBの記憶容量を有し、オペレーティングシステムはEDOS−MSOであった。その後、研究所の整備が進むにつれ、電算機利用者の増加、データベースの拡大等に対処するため、5年後の昭和55年2月に2代目システムとして上位機種のM−180を導入稼動させた。このシステムは、中央処理装置に3MIPSの能力を有し、主記憶容量は7MB、OSはVOS3(仮想記憶)を採用し、オンライン・TSSを指向したものであった。このため、以降の利用方式は、バッチ、TSSともオープン利用であり、「電算機利用の手引き」を用意したり、プログラミング講習会を随時開催する等を行った。3代目のメインフレームは、昭和60年12月にHITAC M−280Hに更新された。このシステムはCPUの処理能力を3〜4倍に増大し、磁気ディスク容量の増加、通信回線の倍増等を図り、また周辺機器の整備などによりユーザーフレンドリーな環境を作り出し、端末機や通信回線からのアクセスに容易にし、電算機を取り巻く利用状況の変化に対応するようにした。例えば、昭和60年度末には、各回線ごとの端末機数は、300ボー回線22台、1200ボー回線25台、2400ボー回線4台、9600ボー回線21台、チャンネル直結16台というように整備され、システムのネットワーク利用に対応できるようになった。

(3)図書館業務の提供

 環境・公害に関する情報が既存のすべての専門分野に関連するため、当研究所発足以来、膨大な量になりうるこれらの図書・遂次刊行物等の資料の収集、整理、保管、提供に当たっては、どのような図書館業務が研究所にとって最も適切なのかが何回かにわたって検討されてきた。スペース等の制約からマイクロフィッシュ等によるマイクロ化や電算機による図書・資料の迅速かつ簡便な検索等が一貫して検討されてきた。発足当初は、オープン利用を目指して、本館中央のラウンジ・エリアに回覧室と書庫を設置し、順次、レファレンスブック等の共通図書並びに内外の専門雑誌等の遂次刊行物を備えるようにしたが、次第にスペース等の関係もあって、専門単行本等の多くを最も利用度の高い図書については各研究部に置く、集中型と分散型の混合形式で運用されるようになった。また、次第に蓄積される遂次刊行物等のバックナンバーについては、昭和62年度には、玄関ロビー・ラウンジ二階等の一部を改造利用するなど、図書室の拡充設備を図り、従前の電動書架や図書閲覧室に加え、新たに図書事務室、バックナンバー書庫、新着雑誌書庫、雑誌回覧室、地図マイクロ資料室等を整備した。さらに、図書等の整備検索等の電算処理をパーソナルコンピュータ利用によるデータ入力を進めるなど、効率化を図った。なお、環境情報部最後の年に当たる平成元年末の研究所の蔵書等の概数は、単行本が27,000冊余、内外の資料類が12,500冊、洋和雑誌が2,000誌弱、航空写真が1,500枚に衛星写真(未整理)、地図が8,400葉、米国EPA等のマイクロフィルム・マイクロフィッシュが71,300件、新聞スクラップが31,100件ある。このうち、雑誌等の遂次刊行物及び共通図書等の選定は、所内の図書委員会が行ってきた。

(4)編集・刊行・出版業務

 研究所における研究活動が進展するにしたがい、それらの内容、成果等を研究報告等として広く公表するため、編集、刊行、出版の業務が必要となり、所内に設けられた編集委員が中心となって内容の検討や出版形式の改善方針を決め、それによる業務を環境情報部が担当してきた。これらの編集方針には、研究発足以来何回かの改正があったが、平成元年度までの主な出版物のカテゴリーは、研究所の活動全般を毎年1回報告する「年報」、既に130冊を超えた特別研究やまとまった研究成果を報告する「研究報告」、その他モニタリング・データ、研究資料、所内で開催したシンポジウムや研究会等のまとめ等を報告する「その他報告」がある。この他に、昭和57年度から年6回のペースで研究所の動向を伝える「国立公害研究所ニュース(後に国立環境研究所ニュース)」を編集・発行してきている。

(5)環境情報に関する研究成果

 環境情報部では、「情報調査室」及び「情報システム室」を中心にして、以下のような環境・公害に関する情報科学的研究を実施してきた。

@環境データの処理手法の開発

 環境モニタリングで得られるデータには、通常、ガウス分布に基礎を持つ従来の統計的手法がそのまま適応できない。このため、各種の数値情報の収集、体系化に際し、環境データ処理に新しい方法論が必要である。これに関し、主に次の4つの研究課題を実施してきた。@大気環境データの記録方法の標準化、A環境データの構造解析とその統計的性質、B環境計測(モニタリング)の誤差に関する統計的検討、及びC環境データの表示手法の開発。

Aリモートセンシングによる環境の計測と評価

 環境情報部では、昭和51年度より、航空機や人工衛星センサーから得られるリモートセンシング・データを処理し、これから有効な環境状態に関する情報を抽出するための基礎研究を行ってきた。水域関連では、茨城県霞ヶ浦において、航空機及び人工衛星のデータ収集に同期して、湖上で水質調査を行い、湖水域の水質を定性的、定量的に計測する手法を開発した。この結果、水温、透明度、SS(懸濁物質)の測定が可能となり、クロロフィルの測定も可能性があることが判明した。さらに、これらの手法から、他の湖沼等の水質指標分布図の作成、海域の赤潮分布や表面水温の計測した手法による環境の計測と評価をタイ国と協力するなどして国際的に適用拡大を図った。

B環境状況の解析・評価のための画像処理技術の研究

 写真、地図、人工衛星センターによる映像データ等の画像情報を利用し、環境状況の解析、評価を行うことは、コンピュータの発達とともにますます重要な意味を持ってきている。多次元的データを与える画像情報を有効に処理活用することにより、時空間的広がりの中での環境状況の変化を的確に把握するのに不可欠である。このため、環境情報部では、リモートセンシング・データのみならず、景観写真、顕微鏡写真等の広範な画像データの処理が可能な、対話型の環境解析・評価のための画像処理システム“IPSEN(Image Processing System for Environmental Analysis and Evaluation)”

C知識情報の解析手法及び処理過程の研究

 地域住民等が環境をいかに認識し評価しているかを知ることは都市計画等の環境計画や公害苦情処理等の観点から重要である。環境情報部では、こうした言語による情報等の知識情報を解析し、環境評価の構造を明らかにするための解析手法の開発を進めてきた。このため、連想法による調査方法を確立し、通常文で記述されたアンケート調査データ(自由記述文)の解析法(近傍法)及び結果の表現法を開発した。

Dその他の研究

 環境保全プロセスシステムの最適構成、環境モニタリングしすてむの最適配置等に関する数理的方法の開発、さらに環境・公害文献情報の検索に不可欠のシソーラスの開発等を行った。

総合解析部

(1)環境計画手法の解決

環境保全は具体的にはそれぞれの地域レベルでの計画で実現されるものであるが、そのための環境計画の諸手法の開発及び交通計画など他の空間利用計画との融合の手法についての研究を進めた。その中で、景観・緑・水辺等環境構成要素の心理的・行動面評価に基づく環境設計手法開発、自然環境の利用構造分析とナショナルトラスト運動を対象とした市民参加による自然環境保全策提言、景観シミュレーションに基づく市民参加型街づくり手法実験、都市域における物流・交通計画への環境配慮を進めるための環境評価情報システム構築とそれを利用した沿道設計・広域交通体系改善等の研究がなされた。

(2)環境研究の理念と方法論の検討

 環境研究は、研究発足当時はまだ研究分野として新しく、十分体系だてられたものではなかった。そのため当時は環境研究の目標や方法論を探究する議論が各方面でなされていた。そこで、当部においてもこれらの議論を踏まえつつ新たな環境研究の体系を検討し、その結果、“科学”と“工学”、“政策”の3つを有機的につなぐ“環境三学”の枠組を提唱した。さらに、近年の地球問題の顕在化によって環境研究の新たな展開が求められ、技術・生産システム、法・経済制度から哲学・宗教・倫理・科学までを包含する環境研究の理念のより幅広い体系の模索を進めた。

(2)環境の数理モデルの作成

 環境の数理モデルの多くは現象解明を主目的に作られてきた。しかし、対策提言の道具として必要なモデルはこれらとは異なる特性が要求される。そこで、当部では気圏、水圏、地圏のそれぞれにおける、汚染物質・有害物質の挙動を表現する独自のシミュレーションモデルを開発した。

 大気については、汚染の空間分布を空間統計理論から直接表現する、全く新たな“パターンモデル”を提示し、効率的な汚染予測を可能とした。水環境については湖の水質と生態系を含めた総合モデルを提案し、湖生態の予測と対策提言に結び付け、この種のモデルとしては我が国最初のものとして、社会的に高い評価を得た。また、土壌中の水量、水質に関しては実用的な“多重ボックス”タイプのモデルを新たに開発し、これを更に水田からの肥料流出の予測などにも拡張した。この結果は、農業工学分野にも新たな展開を示唆するものとして評価された。

(4)モニタリングシステムの適正化

 世界的にみてもよく整備されている我が国の環境モニタリングシステムであるが、昭和50年代に入り、その合理性についての再検討が始まり、当部にその論理的根拠づくりが期待された。このためまず検討したのは、環境監視システムの合理性を評価する基準を明らかにすることであり、次いでこの基準に立った観測の最適時空間配置を探索することである。この検討結果に立って既存の大気と水質監視システムを対象に“情報量”及び“費用/効果”を基準とする適正化の方針を提示した。この成果は国のマニュアルの中に反映され、また学界的にもほぼこの分野の研究の決定版として定着している。

(5)環境の長期予測に関する研究

 21世紀初頭に向けた社会経済の基本的トレンドが環境問題をどのように変化させていくかを予測することは、長期的な環境政策の展開方向を検討する上で不可欠である。このため、シナリオ分析、デルファイ調査、計算機シミュレーション等の総合解析的手法を総動員して、大気汚染、水質汚濁、都市アメニティ、自然保護、廃棄物、有害化学物質等の問題を体系的に予測した。そして、この結果得られた約100の長期予測シナリオを有効に活用するため、知識ベースやモデリング支援システム等の計算機支援システムを開発した。

(6)環境保全に対する経済的手法に関する研究

 環境経済学は、環境と経済活動との関係や環境保全のための経済的手段について研究する学問分野であるが、この分野の研究は環境政策の立案や評価にとって欠くことのできない研究領域である。このため、当研究所においては設立当初より経済学を専攻する研究者を採用し、この分野の研究を進めてきた。これらの研究は、霞ヶ浦の水質管理、地方公共団体のごみ処理やリサイクル、ナショナル・トラスト運動、林道開発問題、大都市のアメニティ創造などを題材にして、環境や自然資源の価値の計測、環境保全に要する費用算定、その費用負担のあり方の検討、環境保全活動の経済的インセンティブの解明、市場メカニズムを用いた環境保全施策の検討等を行ったものである。これらの研究成果は、我が国の環境経済学の発展において大変重要な役割を果たし、その後の地球環境問題をテーマとした新たな環境経済学の展開の基礎となった。

(6)意思決定と政策分析に関する研究

 環境政策の良し悪しは、政策によってどの程度の効果が生じたかという観点とともに、政策が決定される過程において個々の人の選考や意見がどの程度反映されたかという観点から評価される必要がある。このため、個々人が政策検討のために利用できる情報量を増やすとともに、それぞれの選好や意見を反映するための有効な方法論や施策について、体系的な研究を実施した。まず、多くの参加者の意見交換を効率的に行うための手法として、携帯式の回答の集計装置(グリープ・アナライザー)や各種の情報提供機器や計算機と組み合わせて回答を集計・加工できる人間環境評価実験施設(ELMES)を開発して、種々の意思決定の過程がどの程度改善されるかを実験により分析した。また、地域開発等の際に地域住民や地方公共団体と事業者の意見交換の促進をねらった環境アセスメント制度を対象にして、この制度が計画決定過程にもたらした政策効果について、実態調査や当時参加の実験によって解明した。

(8)環境情報と環境指標の確立に関する研究

 環境政策には、各種の情報を体系的に整備して有効に活用することが基礎となる。このため、今までに各種のデータベースを構築し、また環境指標体系を整備した。データベースについては、道路沿道や都市内の居住地区を対象とした地区・地域の地理情報システム、都道府県レベルのマクロデータを整備した広域情報システム、国単位の情報を整備した国際情報システムは総合解析情報システム(SAPIENS)という大規模な情報システムに統合して管理されることになった。一方、環境指標については、環境評価のための各種の物的指標が作成されたほか、住民意識を反映した指標やエコロジー指標などの新しい指標が作成され、実際の政策に導入されることとなった。

(9)景観シミュレーションシステムの開発とその街づくりへの応用

 景観は地域の環境を評価する上で大きな要因の一つであり、快適な景観の創出は、街づくりを行う上で不可欠な要件である。しかし、従来、景観の良し悪しを計量化するための有効な手段が少なかったために、具体的な街づくりにおいて景観に配慮した対策を行うことは容易でなかった。

 本研究では、景観を評価するためのシステムを開発することを目的として、地域の景観写真を基に、計算機による画像処理技法を応用して、景観要因を自由に変更し、修景を行うシステムを開発した。現場の写真を利用するため臨場感が失われず、また計算機を利用するため修景が容易で、処理の融通性が高い。

 本システムを利用して、地方自治体との協力により、既に約1,000例の景観シミュレーションが行われた。また修景の結果を住民に呈示し、景観の良し悪しを評価してもうらうなど住民参加型の街づくりへの応用も試みられている。

(10)リモートセンシングによる環境の計測・評価手法の開発

 環境問題の特徴として、地球規模での環境問題はいうまでもなく、都市域や田園地域における地域環境問題においても、対象となる地域は次第に広域化しつつある。広い範囲にわたる環境の状態を正確に把握するためには、従来からの地上調査による観測に加えて、人工衛星等を利用した広域環境計測手法の利用が望まれる。

 本研究では、人工衛星等からのリモートセンシングデータを利用して、さまざまな環境パラメータを計測・評価する手法及びシステムの開発を行った。具体的には、リモートセンシング画像を効率的に処理するためのデータ処理・解析システムを開発し、“湖沼の水質分布計測”、“都市域の植生活力度分布計測”、などを行った。これらの手法は現在、茨城県、福岡県、岡山県等の地方自治体との協力により、具体的な現場での環境主題図の作成に利用されている。

(11)騒音の予測と防止に関する研究

 環境白書によれば、騒音公害は各種公害のうち最も苦情件数が多く、快適な社会の達成を妨げる一因となっている。本課題では、騒音公害の解決を目指して、その予測と防止に関する研究を実施してきた。騒音予測に関しては、土浦バイパスなどでケーススタディを実施し従来型予測モデルの妥当性を検討した。また近年次第に用途が広がりつつある境界要素法を用いて、任意の境界条件の下で騒音伝播を予測できる新型モデルを開発した。騒音防止に関しては、吸音材料の任意入射角における吸音特性を、空間フーリエ変換を用いて一括測定する方法を開発した。

(12)化学物質のリスク管理に関する研究

 化学物質が環境汚染を通じて人の健康や生態系に及ぼすリスクの適正な管理は今後の環境施策の柱の一つである。そこで、化学物質による環境リスクの評価・管理手法について一連の研究を行った。まず、リスク評価のための化学物質の環境濃度を予測する手法の開発を行った。環境濃度とそれを説明する要因の統計解析に基づく重回帰モデルと、陰イオン界面活性剤(LAS)を例にとり水中と底質中での挙動を記述したモデルを開発した。一方、リスク管理については、モデル地区を設定して、地域における化学物質のリスク管理手法を検討した。また、リスク管理と情報の関連を、情報の蓄積とリスク管理進行過程に配慮しつつ分析した。

(13)廃棄物処理にかかわる物質循環の適正化に関する研究

 量的増大と質的変化は廃棄物の適正処理を困難にしており、最も重要な環境破壊の源となっている。そこで、廃棄物処理にかかわる物質循環を適正化するための方策について検討した。まず、廃棄物減量化の方策としてリサイクル及び有料化等を取り上げ、その効果と問題点を解析した。リサイクルの促進には回収資源の流通が障害となること、有料化が減量化の有効な手段となることなど、最近話題にされていることを最初から明らかにした。一方、有害廃棄物の管理については、廃乾電池の問題を検討するとともに、発生から処分に至るまでの有害廃棄物管理の考え方を明らかにした。さらに、有害廃棄物による環境汚染を防ぐ方策として、埋立処分地のモニタリング手法について基礎的な検討を行った。

(14)地球環境問題への対応

 昭和50年代後半は、熱帯林消失、オゾン層破壊、気候変動等地球規模の環境破壊に関する科学的知見が集積し始めた時期であった。これに対応して、昭和59年度より、温室効果ガスによる気候変動問題の政策科学的側面に関する研究をスタートさせ、国内諸研究機関との協力による温暖化問題シンポジウムの開催(63年度)、温暖化による環境影響及び対応策の予備的研究(元年度)によって、所内外の温暖化研究体制を構築し、日本の研究をIPCC等に反映させた。

(15)環境調和型技術の評価に関する研究

 環境に関連する技術には、三元触媒のように環境対策のみをもくてきとしたものと、他の目的を持った技術でありながら環境にも優しい技術とがある。本研究では後者を環境調和型技術と名付けてその評価を行った。

 環境調和型技術には、エネルギー技術、産業技術、民生技術、交通技術の各分野で数多くのものがある。それらを環境への優しさはもとより、省エネルギー性、安全性、コスト、技術の難易度、利便性等の指標を用いて評価することより総合的な評価が可能となる。

 このような検討の結果、民生関連の技術ではソーラーシステム、高断熱、高気密建築技術等、交通関連では電気自動車等が有効な技術であると結論された。

計測技術部

 大気計測研究室は、大気中の微量有機物質の測定法の開発と応用について力を注いできた。特にガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)を利用した各種汚染物質の開発を中心に研究を進めてきた。主な成果としては、自動吸着捕集サンプリングによるサーベイマスフラグメントグラフィー法の開発、アルデヒド類や悪臭関連物質の同定定量法の確立、自然起源有機化合物(例えばテルペン類)の定量法やエアロゾル生成機構の解明がある。また新しい質量分析手法の開発の研究を行い、スパーク源四重極質量分析法、表面イオン化質量分析法高効率の負イオン測定法等の基礎的な研究により、質量分析法の可能性を拡大した。さらには、降水中の微量汚染物質の測定法に関する研究を行い、プラズマ発光分析法、イオンクロマトグラフ法等により、降水成分の微細な時間変動の測定を多成分について可能とし、これは後の酸性雨研究への基礎となった。上記のほか、機器関連の研究として、低濃度標準ガス発生装置システム、ガス成分自動サンプラーなどの試作を行い、実用化された。

 水質計測研究室では、環境水中の微量有機成分、重金属類及びその他の水質指標の計測法に関する研究が進められた。低濃度有機成分の分析法としては、GC/MS法、フィールドデソープションイオン化/MS法(FD/MS)、LC/MS法レーザー蛍光法が確立され、また炭素同位体(C13)の測定技術を確立して、安定同位体トレーサー利用にみちをひらいた。FD/MSの特徴を活かし、再現性のある質量スペクトルを得るためのエミッタ-電流コントローラーを試作し、また高速液体クロマトグラフィーとFD/MSを組み合わせることにより、従来詳細な分析が不可能であったポリオキシエチレン系の中性洗剤の同定法を確立し、その存在を我が国河川水中で確認した。重金属類の分析法として、面検出法の確立を行った。また、湖沼、内湾等の水質変化を自動監視するため、センサーを用いた多要素自動連続モニタリングシステムのための基礎を築いた。

 生体化学計測研究室では、生物体(人体組織、植物や動物等の組織)に含まれる元素及び有害有機物質の微量計測及び存在形態別計測法の開発を行った。ICP発光分析法、ICP質量分析法、同位体微量分析法、蛍光X線法、ゼーマン原子吸光法、蛍光光度法を用いた微量元素計測法の応用により、多くの生物試料についてのデータの蓄積が進んだ。生物試料中の元素の濃度だけでなく、その存在形態を明らかとするための手法の開発が進められ、HPLC、TLC、GC等の各種クロマトグラフと高感度な元素分析法の組み合わせが試みられた。また、特に海産生物中のヒ素について化学形態の解明が行われ、ヒ素糖、ヒ素脂質、アルセノベタインとテトラメチルアルソニウムイオン等の構造が解明された。このような元素の化学形態を記述する方法としてHPLC−ICP−AES法が提案され、多くの応用をみるに至っている。有害有機物質として、特に発ガン性有機化合物を対象に、分析法の開発が進められた。ダイオキシンが研究の対象に加えられ、その超微量分析法の開発が進められた。また、後述するスペシメンバンキング及び環境標準試料に関する研究が、主として本研究室によって担われてきた。

 底質土壌計測研究室では、発足以来一貫して分子分光法を駆使した、底質、土壌の成分とその中の汚染物質の化学結合状態を分析する計測法の研究を進めてきた。特にX線光電子分析法(XPS)及びレーザーラマン分光法を用いて、底質、土壌マトリクス中の状態分析を行い、またそれらの観測手法により、化学変化の反応機構を明らかにした。そのような例として、土壌の重要な構成成分である粘土鉱物に吸着した各種の金属イオンの化学状態と反応及びそれに伴なう有機分子間の反応による存在状態の変化過程など解明できるようになったことで挙げられる。またXPS及び2次イオン質量分析法などにより表面分析法、元素の微小領域及び深さ方向の分布の測定法の研究を行った。さらには、底質に記録されている堆積環境の長期変動の過程を、底質の年代測定と汚染物質の分析から明らかとする研究を行い有用な成果を出してきた。

 分析室は、「茅レポート」においては業務を担う分析課として20名のグループとして設計されたが、実際には7名の定員しかつかず、業務内容を最も重要と考えられる共通機器の統括管理、依頼測定サービス、大気モニター棟の維持管理に重点的に絞り込んで、業務を遂行してきた。分析室において管理した大型機器は13機種に上るがこのうち、測定に熱練を必要とする4機種(核磁気共鳴、ガスクロマトグラフ質量分析、電子顕微鏡、ICP発光分析)については、研究所内の分析依頼を受け、室員による測定サービスを実施してきた。またこの過程で技術向上にかかわる研究をも担当してきた。そのような例として、大気モニタリング手法の研究及びマススペクトルデータ検索システムに関する研究があり、いずれも自動測定機の評価、改良や大気排ガス、悪臭物質、有害化学物質の同定に有効に利用されている。

 計測技術部が主体となって行った特別研究として、「環境試料による汚染の長期的モニタリング手法に関する研究」(昭和55年〜57年度)、「バックグラウンド地域における環境汚染物質の長期モニタリング手法に関する研究」(昭和58年〜61年度)、「先端技術における化学環境の解明に関する研究」(昭和62年度〜平成4年度)が行われた。

 「環境試料による汚染の長期的モニタリング手法に関する研究」においては長期にわたる環境汚染のモニタリング手法の一つとして環境試料バンクを取り上げ、それを実施する基礎として、指標となる試料の選定方法及び長期保存方法の確立、また、日本列島規模の環境汚染のベースラインの設定と濃度レベルを明らかとする手法の確立をもう一つの目標として研究を実施した。指標植物を用いた重金属汚染の検索を目的として、調査した結果、水生蘚苔類の有用性を見いだした。バックグラウンド地域の選定と汚染レベルに関しては、摩周湖を対象とし、重金属、有機塩素化合物、PAH等の測定を行い、汚染源との関連の解析を行った。これらの濃度は、BHCを除いて、諸外国での測定例と比較しても極めて低く、我が国の陸水のバックグラウンド地点と考えることが適当であると確認された。大気汚染に関するバックグラウンド地の選定のため、山岳地、林野地の7地点で、各種成分を測定した結果、オゾン濃度の変動に興味ある知見を得ている。環境試料の保存性の研究として、各種の処理条件、温度条件で処理した大気粒子状物質、底質、生物試料について分析を行い、保存開始後、半年〜1年半において、物質によっては保存条件により著しく変化するものがあることが見いだされた。また、これらの低温度成分の測定に必要な高感度分析法を併せて開発し、HPLC−ICP法、レーザーラマン分析法、レーザー蛍光法の開発が進められた。本研究の中心課題である試料の長期保存性の研究、バックグラウンド汚染の解明に関する研究は、いずれも長期にわたる取り組みが必要であり、「バックグラウンド地域における環境汚染物質の長期モニタリング手法に関する研究」に引き継がれた。

 「バックグラウンド地域における環境汚染物質の長期モニタリング手法に関する研究」においては、汚染物質の地球規模での拡散と蓄積に焦点を当て、全国的な地域規模の環境汚染の変化をできるだけ早期に検地するために、いわゆるバックグラウンド地域におけるベースライン値を知ること、そのための観測手法について研究を行った。研究は4部構成され、@バックグラウンド地点の設定と、そこにおける特定汚染物質濃度及び生物相遷多についての知見の集積。水質汚染として摩周湖、大気汚染として島根(隠岐島)と山岳地域が選ばれ、調査を実施した。A二枚貝類を用いた、沿岸海洋汚染のモニタリング手法の研究(Mussel Watch)自動あるいは多成分同時定量法を用いて、分析精度を上げ、日本の17の海岸地点において、ムラサキガイ等を用いた汚染の時間的、空間的変動を把握するシステムを確立した。B環境試料の長期保存によるモニタリング手法として、試料の保存性についての検討を実施し、また試料バンク運営に付随する諸問題の検討を行った。またC以上の研究を支えるために、選択的かつ高感度の分析技術を開発したが、その中にはマイクロ波プラズマ発光分析法、大気圧質量分析法、液体クロマトグラフィー共鳴ラマン分光法、レーザー励起分子蛍光法が含まれる。

 ダイオキシン等の有害化学物質対策が、環境施策上重要となることが予測され、また先端技術産業より排出する汚染物質が社会的関心を集めることと対応して、「先端技術における化学環境の解明に関する研究」が始められた。本研究は、化学物質のモニタリング、生物毒性検定のための新技術の開発、化学物質の性状や挙動の予測、暴露評価とリスク評価手法の確立を目指したものである。一連の研究の中で取り上げられた物質としては、ダイオキシン類、トリクレン、パークレン類及び有機スズ類等がある。ダイオキシン及びフランは超微量分析技術の確立をするとともに、それら物質の環境中での分布、塩素漂白による生成、母乳中での残留等を明らかにした。

 トリクレン、パークレン等については大気残留を明らかとし、また有機スズ類については、精度の高い高感度分析法を確立するとともにそれが広範囲に分布している汚染物質であることを明らかとした。また、試料バンクに保存されていた試料を用いることにより、トリフェニルスズの汚染が、1980年ごろに既に現在とほぼ同じレベルで存在していることを明らかとした。本特別研究は、平成2年の組織変更後は、地域環境研究グループ化学物質健康リスク評価研究チームにより引き継がれた。

 計測技術部において、以上のような研究のほかに科学技術庁、文部省等に支援されたいくつかの研究プログラムが実行された。国立機関原子力試験研究として、「指標生物中に濃縮される無機元素の量と存在状態及びその計画法に関する研究」、「湖沼・河川生態系の酸性化に伴なう物質代謝の変化機構に関する研究」、科学技術振興調整費による研究として「南太平洋における海洋プレート形成域の解明に関する研究」、「ネットワーク共用による化合物情報等の利用高度化に関する研究」などがある。

大気環境部

(1)レーザーレーダーによる大気動態の観測手法に関する研究

遠隔計測手法によって大気の時間・空間的に連続した観測を行うため、大型レーザーレーダー、移動型レーザーレーダー等を用いた研究を行うとともに、大気汚染気体や気温の測定を目的とする新しいレーザーレーダー手法の開発を行った。大型レーザーレーダーによる研究では、エアロゾル濃度を定量的に求めるためのデータ解析手法の研究を行うとともに、光検出システムの改良を行い、広域のエアロゾル分布の定量的測定手法を確立した。さらに、エアロゾル分布をトレーサーとして、大気境界層の構造や海風前線の構造とその動態など、大気汚染現象に関する大気構造を可視化することに成功した。一方成層圏エアロゾルの動態の観測研究を開始するとともに、対流圏エアロゾルについても観測を開始し、対流圏エアロゾルの季節変化や黄砂などの長距離輸送現象の観測研究を行った。また、対流圏・成層圏のエアロゾルの光学的性質を更に正確に把握するための小型のレーザーレーダーの製作、都市域における大気境界層エアロゾル測定用移動型レーザーレーダーを製作し、これらを用いた観測研究を行った。

 汚染気体の計測に関しては、二酸化窒素の測定を目的とする、移動型の差分吸収レーザーレーダーシステムを開発し、都市大気中二酸化窒素の高度分布の日変化等を観測した。さらに、2ミクロン帯のパルス赤外波長可変レーザーを用いた長光路吸収システムを開発し、炭酸ガスを対象とした測定感度の評価などの基礎実験を行い、地上衛星間の長光路吸収測定の基礎となる成果を得た。

(2)レーザーレーダーによる成層圏オゾン濃度変動の実態把握に関する研究

 差分吸収レーザーレーダーによる成層圏オゾン層の測定について、計算機シミュレーションによる測定感度の評価を行い、エキシマレーザーを光源とするオゾンレーザーレーダー装置の設計、製作を行った。オゾンレーザーレーダー完成後、理論値との比較による性能評価、オゾンゾンデとの同時観測による性能評価を行い、設計どおりの性能が得られていることを確認し、昭和63年8月より観測研究を開始した。

(3)人口衛星を用いた大気観測の基礎的研究

 地球的規模の大気環境観測における人工衛星センサーの有効性を評価するための基礎的研究を行った。太陽掩蔽法などを用いた受動方式の光学センサー、衛星搭載レーザーレーダー、地上衛星間レーザーレーダー長光路吸収法について理論的な評価と技術的な問題点の評価を行った。

(4)光化学大気汚染にかかわるオゾン等二次汚染物質の生成機構に関する研究

 光化学スモッグの抑止戦略の確立に資するため、環境濃度領域で実験可能な真空排気型の大型光化学チャンバーを製作し、これを活用した光化学オゾン生成機構の研究を行った。光化学チャンバーを用いた窒素酸化物―炭化水素―空気系の一連の実験により、炭化水素過剰領域におけるオゾンの最大生成濃度がNOX初期濃度の平方根に比例すること、また生成速度が炭化水素の初期濃度とOHラジカル濃度の積に比例すること等を明らかにした。また光化学チャンバー内の壁面不均一反応で亜硝酸が生成されることを実証し、反応モデルによる数値シミュレーションにこの反応を取り入れることにより、実験と理論予測のよい一致が得られることを明らかにした。

 オゾン以外の光化学二次生成物の生成機構の研究としては、オレフィン系、芳香族、脂環族炭化水素、有機硫黄化合物、さらに対流圏化学で重要な植物起原炭化水素(テルペン類)の大気中光酸化反応過程について調べ、それぞれの反応生成物、反応機構を明らかにした。

(5)大気化学反応中間体、素反応過程に関する研究

 対流圏、成層圏における大気化学反応過程にかかわる反応中間体の直接検出を実験的に確立し、それらの分光学的性質を明らかにするとともに素反応過程の確立、反応速度定数の決定等を行った。光イオン化質量分析計を用いた実験では多くの種類のアルキルラジカルと酸素原子・分子との反応速度定数が決定された。またレーザー誘起蛍光装置を用いた実験では、酸化反応中間体として重要なCH30、C2H5O、C3H3O、HCCO、CH3S、IOなどのラジカル類のスペクトル、反応速度定数等が得られた。ラジカル類のスペクトル、反応速度定数等が得られた。ラジカル類についてはこのほか、SiH2、SiCl2、CF3、HOSO2等の分光学的研究、NO3ラジカルとオレフィン類の反応のメカニズム、オゾン―オレフィン反応の生成物であるCriegee中間体の反応性に関する研究がなされた。また、炭化水素の不均一酸化反応に関連してフーリエ変換赤外分光法による低温酸素マトリックス中での光化学反応が研究され、その特異的反応が明らかにされた。

(6)大気乱流の構造と乱流拡散機構に関する研究

 任意の大気安定度を再現することのできる大型拡散風洞及び開水路、特殊水槽を製作し、これらを用いた実験的研究と同時に乱流理論に基づいた理論的研究を合わせ行うことにより、種々の条件下における乱流拡散機構を解明した。まず大型拡散風洞を用いて、山越え気流に関する米国環境保護庁(EPA)との共同研究を行った。夜間接地逆転層形成時には、気流は山を越えずに迂回して山腹に層状の高濃度大気汚染の帯が形成され、中立成層時での山越え気流としては著しいフローパターンの差異が生ずることが分かった。また米国ASCOT観測(複雑地形状での大気汚染に関する大規模観測)に参加し、複雑地形上での重力流の基本形態とそこでの拡散機構が明らかにされた。さらに、2方向成分測定可能なレーザー・ドップラー流速計と白金抵抗温度計によりなる計測システムを2組用いて、乱流の組織的構造の解明を行った。一方、一般風がないときに形成される局地風の解明のために特殊水槽を用いた実験を行い、海陸風の重力流としての基本的な流動形態を確認した。さらに、成層乱流の基本理論を組み込んだ気流の数値モデルを用いて重力流の挙動を詳細に調べ、海上の重たい気体が内陸地域の奥部まで到達して汚染質の輸送を伴なう場合に、ナイトスモッグを引き起こすことを確認した。

 また、都市域における大気汚染と乱流拡散構造の観測を実施し、晴天時の夜間の都心部では従来の隣地逆転層の理論では説明できない大気拡散構造の存在が明らかとなった。それは、平均建物高度(都市キャノピー層)の2−3倍に出現する上空逆転層を持つ都市境界層に特徴づけられ、都市気象と大気拡散に重要な役割を持つことが判明した。このため、都市キャノピー層をモデル化した乱流理論を確立し、この観測結果がシミュレーションで再現されることを示した。

(7)広域における大気汚染物質の輸送変質過程の動態説明

 この研究は関東甲信越域での広域の汚染物質の長距離輸送と、九州地域を中心とした主に海上での長距離輸送の観測の二つの研究として実施した。関東甲信越の場合には、東京湾沿岸の大規模発生源地域で排出された汚染物質は夜間陸風により湾上に輸送・蓄積され、翌朝の海風と大規模風によって再び上陸し、日中関東平野を北上、関東北部で進路を北西に変え、夕刻には関東山地を越えて、中部山岳内部に侵入することが明らかとなった。これらのデータセットを基に輸送・拡散のほかに反応、粒子化、沈着を含む数値モデルを完成させ、一次汚染質と二次生成物質の時間的・空間的な動態が再現された。

 また九州地域を中心として行われた野外観測では、高濃度O3は成層圏O3の沈降と人為起源大気汚染物質が海上を長距離輸送されることにより発現することが判明した。さらに、鹿児島桜島から放出されるSO2が長距離輸送され、その過程でSO42−に変換されて、一部は降水中に取り込まれ、九州北部地域に降下することが明らかとなった。

(8)エアロゾル光化学的生成に関する研究

 大気中において、光化学反応によりガス状汚染物質から粒子状物質が生成する過程をシミュレートする手段として、エアロゾルチャンバーを用いた研究を行った。SO2光酸化反応の研究ではOH+SO2の反応速度定数、オゾン・オレフィン反応で生ずるCriegee中間体とOHとがSO2酸化に寄与する相対比を求めた。有機エアロゾルについては芳香族炭化水素18種、シクロアルケン類炭化水素、テルペン類炭化水素の各々とNOXの共存系にエアロチャンバー内で光照射し、それぞれについてエアロゾル収率の炭化水素初期濃度依存性や湿度依存性を明らかにした。得られた収率データに基づいて実大気中の有機エアロゾル生成に対する芳香族炭化水素の寄与率を推定し、トルエンの寄与が最も大きいとの結論を得た。また、シクロアルケン類、テルペン類とO3との反応によるエアロゾル収率を求めた。

(9)大気エアロゾル・酸性霧の化学組成・粒径分布に関する研究

 酸性霧の多発地点である赤城山等で霧水中の各種イオン、カルボン酸、過酸化水素濃度等を測定し、酸性霧の化学組成の特性を明らかにした。また、日本海岸の降雪中に含まれる硫黄の安定同位体比の測定、蔵王山における樹氷中に含まれる化学成分の分析などから人為起源由来の硫黄、炭素の寄与の推定を試みた。さらに熱線流速計を用いた微小水敵の実時間絶対粒径測定装置を開発し、これを用いて赤城山の滑昇霧、蔵王山の過冷却水滴の粒径分布等の時間変化の観測を行った。

(10)分子クラスター生成過程の研究

 気体からエアロゾル粒子への変換過程を理解する上で重要なニ成分クラスターの生成機構を調べる目的で、ガスセル法によるクラスター一分子衝突実験及び混合ガス系の膨張実験を行った。これらの実験から、混合ガス膨張によって生成するニ分子クラスターの強度分布が統一的に説明され、分布異常、いわゆるマジックナンバーが理論モデルにより説明できることが分かった。

水質土壌環境部

(1)霞ヶ浦の栄養塩等の物質収支、物質移動に関する研究

 霞ヶ浦(西浦)高浜入において、流入栄養塩の懸濁物質の沈殿を主とした水質変化を1年間及び降雨時流入期間について明らかにした。自生性及び外来性の新生沈殿量と沈殿堆積量を算定した。湖内の溶存有機物(DOC)濃度は流入河川水より高く、湖内でDOCが大量に生産され、分子量100万以上の高分子の比率の高さが明らかとなった。吹送流による底質の巻き上げ機構を明らかにし、風、吹送流及び濁度の現地観測を基に底泥移送のシミュレーションを確立した。

(2)中禅寺湖の富栄養化現象に関する研究

 昭和56年にウログレナ淡水赤潮が発生した中禅寺湖について、昭和56年8月から昭和58年6月まで毎月1度の栄養塩収支を主とした富栄養化調査を行った。最大水深160mの湖内水温分布構造を明らかにし、湖内の栄養塩現存量変化を算定した。流入及び流出河川の負荷量観測や懸濁物質の沈殿量観測も併せて行い、栄養塩収支を明らかにした。中禅寺湖からの流出水量の72%が地下水による漏出と推定され、リンの滞留時間は0.87年と水の滞留時間の約6.5年よりかなり小さく見積もられた。

(3)土地利用の異なる流域から流出負荷量の経年変化の研究

 霞ヶ浦(西浦)に流入する土地利用の異なる多くの河川を対象に、毎週1回定時で年間52回の流出負荷量観測に加えて、降雨時流出負荷量及び晴天時24時間負荷量の観測を実施した。年間流出負荷量は年間降水量が多いほど多く、降雨時の流出負荷量が全体に占める比率はT−PとT−CODでほぼ半分、T−Nで約40%に達した。T−COD、T−N、T−P等の年間流出負荷量が年間降雨の構成内容に従って算定できる手法を確立し、霞ヶ浦の年間流入負荷量の算定を行った。

(4)森林域からの流出水質と渓流河川の水質変化に関する研究

 恋瀬川支川最上流部の森林域で、林内雨・林外雨・樹幹流や土壌水と地下水の水質の長期間観測を継続し、降雨前後や季節変化の特性を明らかにした。無機イオンを主とした水質の流量変化に対する濃度変化パターンから流出特性によるグループ分けを行った。川又川上流部の3渓流河川の高流量時を中心に3年間調査を行い、流量変化に対する濃度や負荷量変化特性を有機物質や栄養塩等の懸濁態成分・溶存態成分・トータル別に明らかにした。

(5)有機塩素化合物による地下水汚染に関する研究

 半導体工場等で洗浄剤として使用されるトリクロロエチレン等の有機塩素化合物による地下水汚染機構解明のため、地下水汚染地域の地下水及び土壌ガスの調査による有機塩素化合物の移動・分散過程の実態把握を行った。基礎実験に基づいて比重が大きくて揮発性の高い有機塩素化合物の土壌層・地下水中での挙動特性を明らかにした。

(6)湖沼の水質管理に関する研究

 霞ヶ浦、湯の湖を主な対象として、栄養塩、有機物、藻類等の現存量と物理化学的環境因子等を基に富栄養湖沼における生態系モデルを開発しモデルの検証を行うとともに、湖沼におけるカビ臭の発生要因について考察を加えた。

(7)汚水及び汚泥処理に関する研究

 汚水及び汚泥中の栄養塩類、有機化合物を効率よく分解・除去する手法の検討を行った。ワムシ類、貧毛類が存在すれば水質浄化能が著しく高まり、汚泥の発生量も減少することを明らかにした。

(8)陸水域に及ぼす埋め立て処分地浸出液の影響に関する研究

 都市ゴミ埋立処分地浸出液のCOD、BOD、全窒素、全リン、アルカリ度等について分析を行った。一般的な生活系排水を比べると、浸出液はBOD/COD比が小さく、窒素/リン比が非常に大きかった。

(9)陸水域における難分解性化合物の生分解に関する研究

 難分解性化合物の生分解性を調べるとともに分解菌の検索を行い、p−クロロビフェニルを完全に分解するPseudomonas属細菌を、またトリクロロエチレンを分解するMethylocystis sp. M株の分離に成功した。

(10)培養微生物の陸水環境における挙動に関する研究

 組換え微生物の安全性及び遺伝子の環境中の挙動を調べた。非伝達性プラスミドも、伝達性プラスミドの手助けを受けて他の菌株に伝達する現象がグラム陰性細菌でも起こることを明らかにした。

(11)陸水域に及ぼす合成洗剤の影響に関する研究

 合成洗剤の下水処理への影響を調べるとともに環境中における分析法を開発し、その挙動について検討した。また、陰イオン界面活性剤(LAS)及び石鹸の嫌気、好気ろ床法の浄化特性に及ぼす影響について検討を加えた。

(12)重金属の溶存状態に及ぼす錯化剤の影響に関する研究

 重金属の錯形成反応における速度差分析の速度論的手法を用いて、鉄及びクロム等の重金属の溶存状態の解析を行った。溶媒による抽出経路の差異を利用してクロム(V)の溶存状態の分別を行う方法を開発した。

(13)生物反応過程の熱力学的分析に関する研究

 都市下水処理場及び浄化槽の運転データ、水質データを基に活性汚泥法のエクセルギー解析を行い、活性汚泥の有機物質の除去能はエアレーションにおいて除去した有機物質のエクセルギーで表されることを明らかにした。

(14)地下水位の季節的変動とその地盤沈下に及ぼす影響の研究

 農業用や消雪用に地下水を利用している地域では、地下水位が季節的に大きく変動するが、長期的にはほぼ一定であることが多い。このような地域でも地盤沈下は年々進行している。そこで、地層に繰返し応力が作用する場合の沈下挙動を解析するため、昭和57年に電子計算機制御方式で応力増分比と載荷時間を任意に設定できる全自動圧密試験装置を開発し、さまざまな繰返し圧密試験を行った。その結果、繰返し時間が長いほど、繰返し応力差が大きいものほど、繰返し回数が多くなるほど、圧縮・膨張の振幅が大きくなる傾向を示した。しかも、繰返し回数が多くなると、繰返しの最大圧密力で静的に載荷したときの沈下量よりも大きくなることが分かった。

(15)簡便な地盤沈下観測システムの開発

 ボーリング孔のような口径の小さい井戸でも、地下水位と地盤沈下量を観測できるシステムを開発し、平成元年より佐賀県で観測を開始し、長期的に信頼できる精度で計測ができることを確かめた。

(16)地下開発が地下環境に及ぼす影響に関する研究

 将来大深度地下開発がなされることと想定して、さまざまな環境影響因子を抽出し、現在までに事例がありある程度想定できること、事例はあるがほとんど分かっていないこと、全く事例はないが将来影響が現れる可能性があることに分けて分類し、それぞれについて地質学的、建設工学的・環境科学的・災害科学的な考察を加え、詳しく言及した。

(17)土壌中汚染物質の生物影響に関する影響

  多くの畑作物を重金属含有土壌で栽培し、重金属の土壌中濃度(sc)と栽培植物の地上部濃度(tc)を式:log(tc)=α+βlog(sc)当てはめて解析したところ、αとβは同一栽培条件では植物の科に固有で、植物の重金属吸収特製や耐性の有効な指標となることを見いだした。この結果は、汚染地の作物種を選定する場合などに適切な指針や理論的裏付けを与える。また重金属汚染地で行った微生物相の調査から、土壌微生物の重金属耐性は放線菌<細菌<糸状菌の順であることが分かった。菌数(糸状菌以外)は汚染度に比例して減少し、対象的に耐性菌が増加した。カドミウム汚染土壌では、カドミウム耐性菌の優占度が、またヒ素汚染土壌では、亜ヒ酸耐性糸状菌の優占度と糸状菌の多様度が汚染度の良い指標になることが分かった。さらに、重金属添加土壌を用いて有機物の分解速度を調べ、重金属による有機物の分解阻害が、土壌中の水可溶性重金属濃度に依存することを明らかにするとともに、複合重金属汚染の毒性を規格化した水可溶元素濃度で評価する方法を確立した。

(18)汚染物質の土壌中での形態と挙動に関する研究

 中性子放射化や蛍光X線などの機器的分析法を多くの土壌、底泥試料に適用して現場での元素分布状況を明らかにした。湖沼や水田の水―土壌界面にはしばしば鉄やマンガンの酸化物が沈殿し、そこに多くの微量元素が蓄積する。ここでは、ヒ素やリンなどのアニオン性元素が2価金属イオンを多く含んだマンガン酸化物に特異集積する新しい機構を見いだし、琵琶湖などの底泥表面での異常蓄積現象を説明した。また、新しく確立したヒ素の化学形態分析法を用いて、土壌中でのヒ素の化学形態を明らかにした。ヒ素の大部分は無機態として存在したが、約0.1%は通常有機態として存在した。この有機態ヒ素は吸着力が弱く、土壌水などに容易に可溶化するので、水・土壌圏でのヒ素の移動を考える場合には非常に重要であることが明らかとなった。

環境生理部

(1)大気汚染物質の生体影響

@NO2の影響

 NO2の生体影響に関する研究は、4研究室の共同の下に昭和52年から本格的に開始された。開始の段階で既に国内外で多くの研究成果が報告されていたが、環境生理部にとって吸入暴露実験は未知の分野であった。そこで、急性、亜急性のNO2吸入暴露実験に主にラットを用いて行い、まず、既知のNO2の影響指標について確認し、次いで、新たな影響指標を開発することを始めた。これらの影響指標を用いてNO2の慢性影響を明らかにすることとした。

 急性、亜急性実験の結果、NO2の新たな影響指標として多くの項目が明らかとなった。(ア)肺については、酸素一炭酸ガス交換能の低下と低酸素血状態、抗酸化性物質量と抗酸化防御系酵素活性の暴露初期における低下とその後の増加、ミクロソーム電子伝達系成分と呼吸系酵素活性の周知的な低下、プロスタグランジン合成能の低下、であった。(イ)血液においては、血清脂肪酸組成の変化、赤血球解糖系酵素活性性の変化、赤血球膜成分の変動を認めた。(ウ)肝臓においては薬物代謝系活性が特異的に低下した。(エ)脾臓においては、NO2の亜急性暴露濃度に依存した液性抗体産性能のこう進の低下が見いだされた。(オ)循環機能では、心電図に異常が観察され、その発見の神経機能との関連が示された。

 慢性影響研究は、従来明確な影響が観察されていなかった0.4ppmNO2を中心として最長27ヶ月間の3回のラットを用いた吸入暴露実験により行われた。主要な成果は以下のとおりである。(ア)呼吸器の病理学的観察では、4ppm9ヶ月間暴露で定型的病変が現れ、27ヶ月目には病変の進行が認められた。形態計測法により、0.4ppm27ヶ月目に病変が認められた。(イ)動脈血の酸素分圧は、0.4ppm暴露で9及び18ヶ月目に低下した。(ウ)酸素消費量は、0.04及び0.12ppm暴露3ヶ月で増加した。(エ)生体内の脂質過酸化の指標になると考えられる呼気中の低級炭化水素濃度は、0.04ppm暴露9.18及び27ヶ月目に低下した。(オ)肺におけるグルタチオン量は、4ppm暴露1〜27ヶ月まで高いレベルを維持した。(カ)抗酸化性防御系酵素活性は、0.4〜4ppm暴露の18ヶ月目で低下した。

 以上のように、急性、亜急性暴露実験によって新たに確立されたNO2の影響指標を中心にして、多くの検査項目について低濃度のNO2の慢性影響を明らかにすることができた。

 ANO2とO3の複合影響

 NO2とO3は、ともに酸化性の大気汚染ガスである。両ガスの生体影響の類似性と差異及び複合効果を調べるために急性、亜急性暴露実験を行い影響指標を確立し、ついで22ヶ月間の複合暴露実験を行い慢性影響を明らかにした。

 O3暴露の影響として新たに確定した主要な成果は、以下のとおりである。(ア)肺の病理学的変化としては、NO2暴露の場合と同様に、低濃度O3暴露18〜22ヶ月目に肺胞の繊維化を認めたが、NO2と異なり気腫性変化は認めなかった。(イ)NO2暴露の場合と同様に低酸素血症が観察され、両ガスの複合で高炭酸血症も認められ、肺のガス交換能の低下が増強された。(ウ)気道過敏性がこう進し、気管支収縮作用を持つ生理活性物質が肺に増加した。(エ)肺の異物代謝系活性は、NO2暴露では低下し、O3暴露では増加し、両ガスの作用は相反した。(オ)肺胞マクロファージの数の増加と代謝的活性化及び食殺菌活性は、両ガスで低下した。また、O3暴露で食殺菌活性が特異的に低下する微生物があった。(カ)呼気ガス中の低級炭化水素濃度は、NO2の場合27ヶ月目に最大となるが、O3との複合では9〜13ヶ月に最大となり、影響が早期化した。

 NO2とO3の複合効果には、各々の影響が増強される場合と、影響の程度は単独暴露と同じであるが、その影響の発現時期が早められる場合の二とおりがあった。慢性影響の場合前者としては、肺の酸素と炭酸ガスの交換能の低下による低酸素血症と肺胞マクロファージの食殺菌活性があった。後者の例としては、気道の閉塞化があった。肺の異物代謝活性は、O3で促進されNO2で抑制される方向に働き、複合では各々の影響が相殺された。

 B粒子状物質の影響

 大気汚染の近年における特徴は、主に都市幹線道路を中心にNO2と浮遊粒子状物質を主体とする複合汚染である。呼吸器疾患と大気汚染物質、特に粒子状物質との因果関係を明らかにする準備段階として、硫酸エアロゾルを取り上げ、生体影響を検索した。得られた主要な成果は、以下のとおりである。

 硝酸エアロゾルの吸入暴露により気管支ぜん息の基本病態である気道過敏性は、3.2mg/m3でこう進するが、長時間の暴露により回復することが明らかになった。1mg/m3では影響が認められなかった。一方、気管支ぜん息の発症・増悪因子となるアレルギー反応は、0.3〜1.0mg/m3の硫酸エアロゾル吸入暴露により濃度依存的に強められた。また、気道の収縮をこう進させるヒスタミンの遊離も増加し、硫酸エアロゾルは気管支ぜん息と関連する可能性を明らかにした。

 硫酸エアロゾルが肺腫瘍発生と関連する可能性を明らかにするために、あらかじめ発がん物質を投与した後にNO2と1mg/m3の硫酸エアロゾルを13ヶ月間吸入暴露した結果、硝酸エアロゾルとNO2との複合は腫瘍促進効果を持つ可能性が示された。

(2)重金属の影響

 @Cdの生体内存在状態と毒性発現機構

 重金属の生体内動態、存在状態と毒性発現とを関連づけ、因果関係を明らかにすることを試みた。

 臓器中のCdの存在状態としては、重金属の解毒に関与すると考えられるメロチオネイン(MT)との関連を中心に調べた。そのために、生体構成成分間の金属の分布を調べる手段として、高速液体クロマトグラムによるゲルろ過により金属を連続的に測定する方法を開発した。本方法により、Cdの存在状態やMTに関する多くの新しい知見を得ることができた。

 腎の近位尿細管でのCdの毒性発現機構には、MT合成能を超えた遊離型のCd存在量が重要な因子であった。また、Cdを有機イオン又はMTに結合させ投与し、腎臓中のCdの存在量や存在形態の変化と病理組織学的変化とを関連づけた。

 ACdによる腎傷害発現機序

 Cdにより腎尿細管は、特異的に傷害を受ける。また、Cdは生体内においてMT、その他のタンパク質と結合し行動すると考えられている。そこで、腎糸球体のろ過機構にアミノヌクレオチド(AN)を用いて傷害を与え、Cdの動向を変えたときの尿細管障害の状態について検討し、Cdによる尿細管傷害発生機序の解明を試みた。その結果、AN前投与群は非投与群に比べ、Cdによる尿細管傷害の発現が遅れ、病理学的変化も軽度であることが判明した。

 BCdの免疫反応に及ぼす影響

 免疫応答には、体液性と細胞性免疫反応がある。体液性一次免疫反応に及ぼす影響を検討するために、比較的多量のCdを抗原投与前あるいは後に投与したところ、抗体産生は抗体産生は抗原刺激とCd投与時期の関係により、抑制されたりこう進されたりした。一方、細胞性免疫反応に関して遅延型過敏反応がCd投与量と相関して抑制されることが判明した。他方、in vitroの抗体産生系ではCd濃度の低い場合はこう進し、高い場合は抑制された。抗体産生系に関与するマクロファージ、T細胞及びB細胞を分画し、Cd暴露群と対照群間との間で組換えを行い、その抗体産生能を調べた結果、Cdによる抗体産生系の障害は主にB細胞への起因することが判明した。

(3)未規制化学物質の毒性評価 

 大気中に汚染が広域化している炭化水素類をモデル物質として用い、健康影響評価法を開発することを試みた。

 @培養細胞を用いた影響評価手法の開発

 塩素化エチレン及びアルデヒドで培養細胞を処理すると、芳香族炭化水素水酸化(AHH)活性が誘導され、AHH活性の増加の程度と動物のLD50とはよく比例した。

 A生理機能への影響評価手法の開発

 アルデヒドによる気管平滑筋の収縮を検討した。ホルムアルデヒド0.1mM以上アセトアルデヒド10mM以上で収縮することを見いだした。アルデヒドの鼻粘膜刺激作用は、ホルムアルデヒドとアクロレインでは、約1ppm程度の低い濃度で、アセトアルデヒドでは100ppm以上の濃度で確認した。

環境保健部

 環境保健部は保健学、医学を基礎とし、疫学調査及び実験の手法を活用して人間の健康と環境汚染との関係を解明し、健康の維持、増進をするための施策に役立つ基礎的資料を得ることを研究の目標としている。したがって、直接、人に関する研究又は調査等を行うことが多い。研究対象となった環境中の汚染物質は、身体への侵入経路により異なり、特に経気道によるガス状物質と浮遊粒子状物質、また、主として飲食物を介して経口的に取り込まれる重金属及び有機化合物等であった。その成果は「重金属環境汚染による健康影響評価手法の開発に関する研究(昭和57年〜59年度)」及び「複合大気汚染が及ぼす呼吸器系健康影響に関する総合的研究(昭和60年〜62年度)」の二つの所内特別研究を行ってきた中にみられる。さらに、騒音その他ストレッサーによる心理的、生理的影響を及ぼすストレスに関する研究を進め、特別研究「大都市圏における環境ストレスと健康に係わる環境保健モニタリング手法に関する研究(昭和63年〜平成3年度)」を開始した。

(1)大気汚染と健康影響に関する研究

大気汚染に関する特別研究を中心に述べることにする。この研究の一つの特徴は、都市幹線道路沿道の浮遊粒子状物質(以下SRMと略記)の濃度測定を行ったことである。成果は、国立公害研究所特別研究報告書SR-2-'89にまとめられた。

@沿道汚染と健康影響の疫学研究

 東京都区内の水戸街道及び環状七号線沿道で、各道路端から150m以内の地区とし、同地域内に3年以上の居住者を対象とした。道路端からの距離に応じて20m以内、20〜50m、50m以遠の3区分とした。調査は200所帯を対象に幼児、児童のいる所帯で、5回にわたり行い、屋内外の二酸化炭素濃度と屋内のSPM濃度の測定をした。その結果、微小粒子(粒径2.5μm以下)濃度は喫煙との関係があったが、暖房器具の影響はなかった。NO2濃度は屋内外ともに道路端に使い地域ほど有意に高い濃度を示した。児童の呼吸器症状調査は、ATS-DLD標準質問票を使用して1,100所帯を対象に行った。呼吸器症状については、すべての症状が道路端に近い地域で高率であった。成人の呼吸器症状については、男女とも喫煙者で呼吸器症状有症率は高かったが、その他の要因に関しては有症率に差は認められなかった。健康調査結果と家屋内外の環境測定結果を対応させると、結論的にははっきりとした影響の関係はいえなかった。現実の沿道汚染は、多くの物質の複合汚染と考えられる。

A屋内SPM濃度調査とSPMの肺内沈着

 粉じんの個人暴露量を推定できる個人サンプラーを使用しての屋内SPM濃度調査を行った。その目的は、SPMの吸入による肺内汚染の推定が可能であり、かつ、粒子状物質吸入の個人レベル濃度を求めることができると考えたからである。さらに、環境汚染指標に使用できるSPM中の元素を検討し、居住地域環境の比較をした。東京都区内環状七号線及び首都高速道路沿道の3地区の住民家屋、デパート各階売り場、ビル内会議室、仙台市内、奈良県内、つくば市内等の住民家屋、比較のために粉じん作業場等について計3回にわたりSPM濃度の測定調査をした。その結果、喫煙のある家屋では粒径2.5μm以下の粒子重量が多かった。人が多く集まるデパート売り場では、一般家庭内の濃度よりも換気があるために低かった。家屋内粒子状物質に含まれる組成元素の分析では、人工発生源由来のMn、V、大部分は自然発生源由来のAl、Ti、Si、Ca、Fe、Na、S、Cl、K、Cu、Zn等が含まれ、Mn、Vについては都区内においては地方都市より高い値を示した。一方、ヒト剖検肺内沈着物から検出された元素は、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、K、Ca、Ti、Fe、Zn、Cr、Ni、Mn、Cu、Pbであり、Si、Fe、Al、Ti、Zn等が含有物の多い元素であった。これらの元素は大気中のSPMに含まれた組成元素でもあり、それらが吸入されて肺に沈着したことを示している。蓄積と年齢との相関をみると、ほとんどの元素は正の相関であり、加齢とともに蓄積量も増加することを示していた。

B屋内外SPM中の多環芳香族化合物濃度

 東京都区内環状線七号線に面した木造戸建て家屋6戸の屋内外のSPM中の多環芳香族化合物濃度の測定を行った。個人サンプラーを用いてSPMを集じんした。粒径2μm以下の微粒子にB[a]P、B[K]F、B[ghi]P等の濃度が屋内外ともに高く検出され、屋内SPM濃度との相関が認められた。

Cスパイクタイヤ使用に伴う粉じん発生状況と住民の健康調査

 長野県佐久郡の国道の農村市街地で沿道大気中のSPM測定、沿道家屋と道路から50m以上離れた家屋内外のSPM濃度測定、スパイクタイヤ装着率によりスパイク期、非スパイク期等に分けて沿道のSPM濃度測定等を行った結果、沿道屋内外の濃度は高かった。また、歩行者のSPM個人暴露量測定を行った。国道沿い、歩道から離れた距離別に分けて測定した結果、国道沿いを歩行する人のSMP濃度は1時間値の環境基準(0.20mg/u)を越えていた。主要道路沿道住民及び小学校児童とその家族にATS-DLD標準質問票で粉じん影響調査を行った結果、発生した粉塵のうち微小粒子は沿道家屋内へ侵入している訴えが多かった。

DSPM生体影響に関する実験的研究

1)大気中に浮遊している元素状炭素粒子にガス又エアロゾルが吸着して体内に入るため、注目されている。安定同位体炭素13Cの肺組織沈着濃度を測定した結果、短時間に吸入されていた。

2)カドミウムと亜鉛について可溶性及び難可溶性化合物をラットの気管内に投与し、代謝的運命を明らかにし、毒性を評価した結果、投与量が少ないときはこれら2種類の金属ではその化学形態に左右されないことが分かった。

3)アスベストのUICCの試料を生理食塩水に懸濁させたものをラット肺気管内投与をした。呼吸生理学的及び生化学的検索の結果、クリソタイルがクロシドライトやアンソフィライトより毒性が高いことが明らかとなった。また、アスベストの暴露指標としてアンギオテンシン変換酵素の有用性が考えられた。

(2)重金属の生体影響に関する研究

 昭和59年度は重金属に関する特別研究の最後の年度であり、その成果を国立公害研究所研究報告第84号(R-84-'85)にまとめた。重金属といってもカドミウム(Cd)に関する研究であるが、六価クロム暴露に関する報告も入っており、22編の報文ができた。本研究はCd土壌汚染地域である秋田県、長崎県、富山県の計3町、対照地域の茨城県、秋田県、岩手県、神奈川県、北海道の計3市と4町における住民の健康調査及び生体試料の採取を主とする疫学的調査研究である。その他、動物実験によるCdの影響を調べたものである。主な知見は、尿細管上皮細胞のリソゾームに局在するN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼの排せつが尿細管機能の低下に先立って増加すること、β2-マイクログロブリンよりも分子量の大きいα1-マイクログロブリンも尿細管障害の指標として意義があること、Cd汚染地区住民に甲状腺ホルモン及び脱ヨード反応に異常が起きている可能性の所見として、サイロキシン及び3,5,3'-トリヨードサイロニンの血中濃度の低下を見いだした。呼気中炭化水素濃度の点からもプロパンがCdによる腎障害に特異的な指標である可能性が示唆された。メタロチオネインに特異的かつ鋭敏な超微量定量法としてラジオイムノアッセイを開発し、これはCd暴露に特異的な尿細管障害の指標となった。重金属汚染地域住民に貧血症が多発しているが、Cdによる貧血は赤血球寿命の短縮が原因であり、Cdにより仲介される膜タンパク質の細胞骨格への強い結合に起因することが明らかとなり、細胞骨格中のCdと膜タンパク質を測定することが貧血の前段階を検出する方法と考えた。低タンパク質状態のラットは腎臓に蓄積しうるCd量が低かった。Cd投与による全体水分量の増加を重水を指標として検討した。六価クロム暴露者の肺剖検例の分析から肺に蓄積していたCr量が非常に多かったこと及びその他の分析知見からみた健康影響の検討等である。経常研究では、微量元素に関する研究を行った。

(3)有機化合物、発がん物質に関する研究

 農薬散布地域住民の農薬暴露量と毒性評価及び動物実験による農薬中有機化合物の胎仔移行への研究、ベンゾ(a)ピレン、1-ニトロピレン等を動物に投与し、Ames test により尿中変異原性分析をし、基礎的検討を行った。

(4)実験手法の開発

 核磁気共鳴法(NMR)を用いて生体のin vivo状態でのエネルギー代謝の研究を行い、従来の31P核測定用Surfacecoilの性能を拡張し、1H、31P、19Fの同時測定が出来るようにした。この結果、生きているラットの脳において脳内の乳酸レベルが同時に観察できるようになった。エネルギー代謝の動態をより詳細に解明するため、磁気的標識法を導入した。NMR測定に適したかん流装置の作成、磁化移動法による測定が細胞内のエネルギー代謝速度の解析に有効であること、新しく稼働状態に入った生体用NMR分光計を用いて、まるごとのラット脳、腹部、筋肉等の測定条件の検討を行った等である。

(5)騒音、環境ストレスによる生体影響の研究

 昭和63年度から騒音、NOX、SPM等の環境汚染に複合的に暴露されている状況の把握及び精神的、心理的影響を含む健康への影響の評価、健康へのリスク評価のために特別研究として調査と分析を開始した。それまでは経常研究として行ってきた。主な研究成果は、騒音の人に対する影響の評価尺度を求める目的で実験を行ってきた。ピンクノイズ(60-105dB(A))暴露下での呼吸様式の変化をインダクタンス法を用いて測定した結果、被検者を呼吸数促進反応群と抑制反応群とに分けることが可能であった。騒音影響の個人差を決定づける要因には呼吸器系の反応の有用性が示唆された。騒音感受性の個人差に関する実験的研究として、若年者及び老年者の計80名を対象に、生活環境音評価実験、YG性格検査及び音刺激に対する指劣脈波収縮反応検査実験(AEPGR)を行った結果、環境音のもつ意味及び物理的特性の違いによって、各々の「うるささ」評価には性、年齢、性格因子による有意な際が示された。環境ストレスに対する生体反応の指標としての尿中カチコールアミンの最適利用法の開発及び発がんリスク修飾因子としてのストレス評価について検討した。慢性的ストレスモデルの一つと考えられるSARTストレスモデルを作成し、持続的に変化し続ける「痛みしきい値」の移動にサイトカインの一種であるインターロイキンを投与した場合に影響がみられることを確認した。胸部、腹部呼吸運動測定装置を携帯用長時間データ記録装置を組み合わせることにより、日常生活時のヒトの呼吸パターン及び換気量を24時間連続してモニターする方法を検討した。騒音暴露集団を対象としたフィールド調査として、新しく作成した自記式質問紙を用いて東京都区内の高層団地に居住する主婦818名、世田谷区と川崎市に居住する主婦各々600名を対象に調査を実施し、その結果の因子分析に基づいて一部を改訂し、再び調査を行い結果を検討した等である。

 

生物環境部

特別研究の成果の概要は部の歩みにしるしたので、それ以外の主な成果について述べることにする。

(1)水の華形成藻類に関する研究

 水の華形成藻類としてミクロキスティス、アナベナ、オキシラトリア等、ラン藻類の種類の年度による変動、季節的変遷及び深度別の分布の変動などを明らかにした。多くの場合、富栄養湖において、水温の上がる夏期にみられる。この時期、多くの動物プランクトンの種類はミクロキスティスの毒素により生存できないと考えられていたが、ミクロキスティスを直接食べないで分解に関与したバクテリアを食べている動物プランクトンの種類が高密度に達することが分かった。ミクロキスティスの毒素は、ほ乳類に対して高い毒性を示すが、分解した毒素は動物プランクトンに毒性を示さない。生きた細胞でしかも接触毒であることを証明した。

(2)環境指標生物の研究

 重金属汚染の指標種については既に述べた。酸性河川、酸性湖沼の指標生物についてと、栄養段階の異なる湖沼の指標について底生動物、特にユスリカについての研究がなされた。それぞれ特徴種があることとともに、生物現存量の多さも指標として使えることを示した。また、底泥のコアサンプルのユスリカ相から近年の富栄養化による環境変化を読み取ることができた。付着藻類相の変化により河川の水質の改善を評価する方法も開発された。

(3)環境毒性試験生物と試験法の開発

 底生動物として重要なイトミミズの大量飼育に成功、淡水産ツボワムシ2種も累代飼育できるようになり、それぞれ実験に供されている。イトミミズは孵化直後は急性毒性試験に、長期暴露に流水式の装置を開発した。1年6ヶ月にわたる長期暴露試験を行うことができた。試験生物としてヌカエビの通年の供給も可能になった。この種は農薬、特に殺虫剤に感受性が高いことが分かり、河川水を濃縮することなく生物試験することが可能となった。試験生物としてOECDで認めているヒメダカ、グッピー、ゼブラ、そして在来種としてモツゴの大量飼育の体制を確立、それらの稚魚の毒性試験に供する最適の例を決定した。

(4)富栄養湖沼生態系に対する実験的手法による研究

 研究所内の実験池における小型の隔離水界(1〜3t)を用い栄養塩添加実験あるいは炭酸ガスなどによる生体系の人為的な操作を行った。構成生物の変化から直接的及び間接的生物相互作用が明らかにされた。諏訪湖に設置した5m角(125t)の隔離水界においても生態系の比較的上位の動物プランクトンを制御する実験、あるいは魚を投入する実験を行った。これらの実験において構成生物相の変化をもたらしたが、食物連鎖構造を変えるには至らず、むしろ食性の特性が顕著に示された。

(5)植物の生理生化学研究

 環境変化に対する植物の反応を生理・生化学レベルで明らかにし、さらに、植物の環境への適応機構を解明することを目標に研究を進めた。大気汚染物質接触、紫外線照射等を受けた植物は光合成の電子伝達機能が速やかに低下すること、二酸化硫黄により炭酸固定系の酵素活性が可逆的に低下すること、大気汚染物質による障害が顕在化する前に脂質代謝が顕著に変化することなどを明らかにした。これらの知見に基づき、クロロフィル蛍光により植物の生理状態を評価することが可能であること、細胞選抜や遺伝子操作によって活性酸素解毒系酵素活性を増加することにより大気汚染耐性植物を開発することが可能であることを示した。さらに、活性酸素解毒にかかわる酵素の一つであるアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)をコードする遺伝子のCDNAをクローニングし、これをプロープに用いて、オゾン接触によりAPX遺伝子の発現が誘導されることを明らかにした。また、紫外線増加によりキュウリの葉の成長が阻害されるが、この阻害は温度に影響されること、紫外線は大気汚染物質に対する感受性に影響を与えることなど明らかにした。

 

技術部

技術部の研究は大別して二つに分けることができる。一つは大型研究施設による研究の進展に伴って生じてきた施設の改良、実験装置の改良開発、計測手法及び計測システムの開発に関するものであり、他の一つは生物、医学系研究施設において供試される実験動・植物の栽培・飼育。培養及び改良・開発に関するものである。ここでは、具体的に成果の得られた例について列挙することとした。

(1)廃棄物処理施設におけるエネルギー効率化の技術的検討を行い、加圧浮上法における加圧水量と処理効率との関係について究明した。また、廃水処理施設の合理的運転に関し、霞ヶ浦臨湖実験施設の廃水処理装置の晶析脱リンの運転条件について検討を行った。

(2)スモッグチャンバー内表面での不均反応を検討するために、メタノール-NO2及び水-NO2の反応系について、種々の材質に対する反応速度定数を求めた。その結果、光化学反応のシミュレーション解析の精度を改善することができた。

(3)酸性雨あるいは光化学スモッグの主要な成分である硝酸ガス、粒子状硝酸塩の分析法について検討し、拡散デニューダーを採用することによって測定値の信頼性と安定性が増大することを確かめた。

(4)大気拡散風洞には一般の風洞の仕様にはない温度調節機能が備わっている。このため、温度依存性を持つ熱線風速計などの測定器を用いた実験では、従来の風洞にはなかったさまざまな困難を経験した。これらの問題を克服するため、新しい風速校正装置や可視化法、濃度計測法など種々の実験手法が開発された。

(5)混合層高度の連続測定を目的とする簡易型レーザーレーダーについて、各種の動作試験の結果、実用機として必要な条件を明らかにするとともに、製作した装置の構成要素の信頼性及び耐久性に関する知見を得た。

(6)淡水マイクロコズムを用いて、秋期に霞ヶ浦で水の華を形成するラン藻(Microcystis viridis)を培養し、10〜35℃の各水温条件で増殖特性を検討した。その結果、10℃でほとんど増殖できないこと、35℃では最大の比増殖速度を示すことが明らかになった。

(7)植物実験棟Tのグロースキャビネットの最適運転制御手法を確立するため、季節による気温・大気湿度の制御外乱と環境制御系のパラメーターの関係を調査し、温湿度の制御パラメーターを確立した。また、低濃度の大気汚染ガスを複合状態で制御するために、キャビネット内部で化学反応や光化学反応により発生する二次生成物の生成速度と、これを除去するための換気回数を実験的に求め、シミュレーションモデルにより検討を加えた。これらの知見・手法確立がグロースキャビネットで行われる大気汚染にかかわる植物実験の再現性・信頼性を保証することになった。これらのグロースキャビネットで得られた環境制御にかかわる知見・ノウハウは、植物実験棟Uの主要設備である自然環境シミュレータの設計に取り入れられるとともに、シミュレータの完成後には植物群落の動的環境を解析するために、植物と環境系の計測制御手法を検討した。

(8)汚染ガスの植物影響にかかわる研究の進展に伴い、植物に吸収されるガス量の計測、その際の生理的変化とその結果として葉面に出現する可視?徴を定量的に評価する手法の開発が必要となった。汚染ガス暴露時に経時的に変化する葉面温度を熱画像としてとらえ、その画像データから葉面の気孔開度、蒸散量、汚染ガス吸収速度の葉面分布などを推定するシステムを開発した。また、気孔が植物体でのガス交換の場であり、その開閉運動が植物の生理活性の重要な指標となることから、生育している植物葉気孔開閉を連続観察できる顕微鏡−画像処理システムを開発した。

(9)実験植物の制御環境下での生育動態を解析し、育成方法を確立するとともに植物の大気汚染ガス反応性を調査した数百品種の日本在来稲から汚染ガスに対して特異的に感受性を示す品種を検索し、その遺伝的特性を明らかにした。数十系統のポプラ汚染ガス感受性とガス吸収量の関係を解析し、両者の関係から汚染ガス指標性と大気浄化能の2面から植物を特徴づけた。また、それらのポプラ系統から、気孔の開閉機能が特異的に鈍い系統を見いだした。野外条件下で百数十種の広葉樹種の気孔開度を調査し、その調査結果からそれぞれの樹種の大気浄化能を推定し、樹種間で大気浄化能が大きく異なり、街路樹などに用いられることが多い落葉広葉樹がその能力が高いことを明らかにした。

(10)淡水産魚類、水生昆虫、甲殻類及び単細胞藻類などの水生生物を純系化して実験生物化するとともに、大量培養法を確立した。特に、ユスリカでは数多くの新種を発見するとともに、水生生物に対する環境毒性評価手法してヌカエビを用いた方法を確立した。

(11)動物実験においては、動物に種々の実験処置を加えることと、それら実験処理中の動物を飼育管理することのいずれもが完全に実施されることが必須条件である。長期暴露実験等では、暴露期間中の適正な飼育管理と環境維持が研究の成否を左右する。この観点から特別研究において、実験中の動物管理と環境条件の作出と維持に関する研究を担当した。これらの成果については、環境生理部の特別研究に含まれて発表されている。経常研究については、新しい実験動物の開発と改良を主な目的としており、「環境科学研究用に開発したニホンウズラの遺伝学的及び微生物学的特性」(R-124-'89)等に発表されている。

   


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